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科研費研究成果報告

科研費 基盤研究(C)  研究期間 (年度) 2019 – 2022 (2023まで延長)

有糸分裂キネシンEg5の多段階光スイッチ機構を持つ阻害剤を利用した機能制御

研究代表者 丸田 晋策 

前期の中心体分離および双極有糸分裂紡錘体の集合など、細胞分裂に重要な生理的役割を担っている。ガン細胞は細胞分裂を繰り返すことで増殖するが、その細胞分裂には染色体を分離するために、 対をなしている中心体が細胞の両極へと移動することが必須である。

Eg5の構造とその分子機構はよく調べられており、他のキネシンには見られないユニークな分子機構を持っている。Eg5には、Monastrol, S-Trityl-L-Cysteine (STLC), Ispinesibなどの特異的な阻害剤が存在している(図1)。

図1.png

これらの阻害剤は、その中心体の両極への移動を司るキネシンEg5の作用を特異的に阻害することにより中心体の分離を妨げ、その結果、癌細胞の細胞周期を分裂期で停止させガン細胞にアポトーシスを誘導する。従って抗ガン剤として注目されている。

 

面白い事に、これらの阻害剤は構造的な相同性は低いにも関わらず、Eg5 モータードメインのATP結合部位近傍のループL5 ,α2およびα3から形成されるポケットに結合してATPase 活性を阻害する分子機構が明らかにされている。

 

Eg5を分子機械として見ると、その特異的な阻害剤はEg5の機能を停止させる分子デバイスとして捉えることができる。


また、これらの分子デバイスは、抗癌剤として作用する事から細胞膜を透過する事が可能である。従って、この阻害剤に刺激応答性の分子デバイスを利用したスイッチ機能を付加する事ができれば、細胞レベルでEg5の機能を人工的外部刺激で制御できると考えられる。

この考えに従い、これまでにフォトクロミック分子であるアゾベンゼンやスピロピランなどの様々な誘導体の合成を行い、その中の幾つかの光異性体が、Eg5阻害剤を模倣しEg5のATPaseとモーター活性を光可逆的に阻害することを明らかにすることができた。

さらに、フォトクロミック分子を二量体化させて、異性体間の構造変化を増幅させる事により、高い制御効率でEg5のATPase活性とモーター活性を制御できる事を示した(図2)。

 

さらにアゾベンゼンとスピロピランを融合させた多段階の阻害活性を示すフォトクロミック阻害剤Spiropyran-Sulfo-Azobenznen (SPSAB)の合成にも成功している(図3)。

 

このように、フォトクロミック分子を利用して、適切に機能する分子デバイスをデザインすることにより、高い効率で作動するキネシンEg5の制御デバイスを作り出すことが可能であることが示された。

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